この前の記事から舌の根も乾かぬうちに・・・。
姉に六界分足りないと言われたんだ。
追記から、厨二臭いSS。
ひっそりやこ→六注意。
卵が割れた。鳥が孵った。
雛は、開いたばかりの黒い眼でぐるりと辺りを写し、そして、ただ一人を見つけた。
インプリンティング。
しかして、その生まれたばかりの小鳥はただ目に写った者を追い続ける。本能。遺伝子に組み込まれた厳命に従って――それが、本当は自分と違う生き物だとは露にも思わずに。
生まれたばかりの鳥の雛が、人の後ろを付いて歩くらしい。
孵卵器に温まれ、人の手を借り、親鳥のことなぞ知らず。
確か、その話題を耳にしたのはそんなに夕食時のことで、ラジオから届いてくるＤＪがそんなことを言っていた。てこなが、いいなあ、と黄色い声を上げる。微笑ましいであるなあ、と乙弥がのんびりと言う。
その歓声に紛れて、哀れだ、という明らかに異色な呟きを、尋海は耳にした。
普段あまりその手の話題を好まない自分ですら情景を想像して、微笑ましく目を細めたものを、隣の人間はそう表現したのである。盗み見ると、横顔は僅かに眉を顰めて本当に無表情に僅かに混じるのは憐憫でしかなかった。
「・・・哀れ、か」
噛み砕くように、その呟きを繰り返してみる。
それが、自分以外の他の者に聞こえていていたのかは分からない。ただ、尋海には長い付き合いのその人間が何を思ってそう呟いたのか、分かりすぎるほどに分かってしまったのだ。
――他の誰が言っても、お前ぇだけは言ってくれるなよな。
その場で言ってやっても良かったのだけれど、ＤＪはとうに次の葉書を呼んでいて、言った本人はまた元の無表情に戻っていて、なんとなくタイミングを逃した。それでも、珍しく真に感情の滲んだ声が耳から離れなくて、その後で咀嚼したものがなんだったのかはよく覚えていない。
「なあ、どうして“哀れ”なんだ？」
夕食を終えて、めいめい己のすべきことへ散っていった後に、綺麗になったテーブルの元には尋海と六界だけが残った。それは、全くの偶然である。
だから、さっきの言葉の意図を問うてみた。別に、わざわざ蒸し返すほどの話題だとは尋海も思っていない。敢えて聞くべきことでもなかったのだろう。自分の予想が当たってしまってもそうではなくても、脳裏に過ぎった黄色い少女に随分と失礼な話だ。
しかし、二人になって真っ先に浮かんだのがその問いで、他に幾らでもあるだろう別の話題は選ぶ気にならなかったのだ。
「・・・一体何の話だ」
「さっきのラジオの話だよ。ちゃあんと聞こえたんだぜ。ひよこの話で、そう言ってたろ？」
ああ、と言われて漸く六界は頷いた。半ば無意識だったのか、しらを切っているのではなく本当に思い至らなかったらしい。
「・・・格段、意味があるわけではない」
「意味もねえことお前ぇが言うかよ」
尋海がせせら笑ってやると、顔を顰めた。
大抵こういう顔をする時は、図星なのだ。その証拠に、相手にも拠るが――尋海に対する場合、それ以上反論することもない。
刷り込みが、な。
観念したように静かに呟くまで、そう時間は掛からなかった。
「・・・あの鳥はずっと気が付かない。それが餌を与えても本当の親でないことにも、飛ぶことの出来ない、まるで己と違う生き物だということにも」
哀れだ。
今度は言葉にこそしなかったものの、言外にも明らかに読み取れて、尋海は溜息をつく。
どうにも、自分の周りの輩は常々物事を穿った見方で取るからいけない。
しかしそれは同時に己にも立ち返る言葉だった。その理屈に反論しかねている自分自身、どうしようもなく刷り込みだよなあ、と思う。
「・・・それでも、きっと鳥にだって哀れまれる筋合いなんてねえだろうよ」
「・・・何か言ったか」
「いんや。独り言」
尋海はこの唐変木を好きになってしまった少女に、少しだけ同情した。
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