ふと、人の気配に気が付いた。
ただ、本と、一匹の小ネズミと、俺しかいない筈の空間。
それ以外はただ白いだけの空白のような場所に、少女が立っていた。
「――やこ?」
誰かを呼ぶなんて、何時以来だろう。
それでも、喉の奥に声が張り付かないのは、時自体が止まっているからだ。
俺は、僅かな驚きを以ってその少女を見た。
「――六さん?」
その“やこ”は、俺が知っているより――否、厳密に言えば知っているのはあいつであって、俺ではない――少し、年を食っているようだった。
やこはまだ十ばかりの少女であった筈だが、目の前に現れた“やこ”は十五かそこらだろうか。
もしかしたら、あいつの知るやこではないのではない。
未来からか、それとも異次元からの来訪者か。
不思議なことがあるものだと思いながら、一概に否定は出来なかった。
ここは、時を失った空間の、墓場のような場所だから。
何故、と、どうやって。
世界というのは得てして人知の及ばぬものがあることは身をもって知っているから、後者には余り興味が湧かなかったが、前者がどうにも気になった。
俺には、この一遇がどうにも万分の一の僥倖に思えて仕方がなかったのだ。
そこまで、人恋しかったのか、と自分自身に苦笑をしながら、なるべく驚かせないように静かに話しかけた。
相手は“緑屋六界”を知りはしても、俺のことは知らないだろう。
「やこ、で間違えないだろうか」
“やこ”は、きょとんとした顔をした後で、首を縦に振った。
そうして、何故だか一人合点のいったように手を打った。
「ああ、そうか・・・。まだあたしのこと知らない六さんなんだ・・・」
知らない、とはどういうことなのだろう。
俺は、あいつの目を以って物を見る。人を知る。世界を感じる。
決して交わりはしない、この場所で。
だから、“やこ”の言葉は妙に気になった。その口振りでは、まるで――
「・・・一つ、言っておこう。俺は、お前の知っている緑屋六界ではないぞ」
勿論、年齢や表面的な性状は異なる。この“やこ”が一体どの枠組みからやってきたのかは知る由もないが、現に俺の繋がっている世界のあいつ――“六界”は、まだ俺の肩ほどもない。
しかし、結局のところ、同じものでできているのだ。
外形、根元の性向、気質、俺を形作る基盤となっている、全てのもの。言わば、俺を“緑屋六界”足らしめるものと、あいつが同じくそうであるもの。
でも、俺は灰田やこという人間と接触をするのは、これが初めてだった。
今更知られてどうなるわけでもないのだが。
具体的に説明するのは兎角骨だけは折れる存在だ、今の俺は。
「・・・知ってるよ?」
“やこ”は、そう言って静かに微笑んだ。
「六さん、“あなた”を知ってるんだよ?」
俺の肩に乗ったコラッタをすっと掬い上げて、もう一度そう言った。
そう言えば、やこは未だかつて、緑屋六界をそう呼んでいるのを、俺は聞いたことがなかった。
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【玄六についてkwsk書いてみた】
緑屋六界とプロトタイプ・緑屋六界(玄六)
玄六――異次元における“もう一人の緑屋六界”(設定より抜粋)。
とは言いながら、こいつらの場合は「鏡的な存在」として対応している「やと――やこ」とは少し具合が違います。
六界の存在する世界の前、ちょうど同位置に存在していたのが玄六の世界。
しかし、諸事情によりその世界が消滅。その世界に存在していた緑屋六界(玄六)も博士から受け取ったフシギダネ(最終的に六界の手持ちに)を他所に送り出した後、世界と一緒に消えました。
その後、何もない世界を漂流すること幾星霜(完全に切り離されているためその世界での時間経過はありませんがおよそ4年程)。六界を通して、皆を影から見守る日々。
そんな折、ひょんなことから玄六の存在を知ったトレーナーズがパルキアを使ってなんとか探し出すに至りました。そこからトレーナーズとの交流が始まります。
それからさらに色々あって、別の世界(*GB版緑)の世界に生まれ変わり、光という友達を得ることで新たな人生を謳歌することになった玄六。記憶はそのままなので、やこのパルキアなどを通して行き来し、トレーナーズとの交流も続いています。
消えた年齢17歳+4年+生まれ変わって現在12歳=通算33歳は禁句。
そんな経緯でずっと見守っていた六界に関しては、基本的に弟のように思っています。
しかし、六界の方も新しい世界に生まれ変わってから段々と子供じみてきた玄六を「弟がいたらこんなものか?」と思っているという・・・。
~見も蓋もないウラバナシ~
なんというか、玄六の発生は完全に中の人の都合に因っています。
メンバーどうしようかな~最初の三匹ゼニガメもいいけどフシギダネも欲しいなあ
↓
あ、じゃあ一回フシギダネ送ってからゼニガメで始めればいいんじゃね?
こんな感じで一回消してしまったので、生じる設定の齟齬。
セキチクまで一切懐かないフシギダネ。しかしおやの名義は「ろっかい」。
そんな経緯で、六界≠フシギダネのおやの「ろっかい」。
それじゃあ「ろっかい」はなんなのか?その点を妄想に妄想を尽した結果、生じたのが「玄六」。完全にこじつけです。更にはそれでは玄六が余りに可哀想なので、救済策としてGB版緑に逆輸入。
なんかもう・・・色々すみません・・・。
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